もしもし
桜の花が満開の頃。
飲み会の帰りの真夜中にバスに出くわしました。
―こんな時間に営業しているのか―
この時期は花見客が多いから、遅くまで臨時営業しているのだろうと思いました。
そのバスは停留所に停まっていました。
眠いし歩きたくもなかったわたしはすぐに乗り込みました。
乗客は誰もいません。
運転手も席を外していませんでした。
わたしだけの貸切状態です。
わたしは一番後ろの座席に座ってまどろんでいました。
しばらくすると「もしもし」と声がしました。
わたし以外誰も乗っていなかったはず。
目を開けると運転席から運転手がこちらを伺っていました。
行先を見ると回送と表示されていました。
― しまった回送車だったのか ―
どうやらトイレか何かで運転手が席を外しているところへ、乗り込んでしまったようです。
わたしは慌ててバスを降りました。
降りてから、すぐに妙なことに気付きました。
「もしもし」と話しかけてきた声は明らかにすぐそばでしたのです。
見ると、さっきまでわたしが座っていた座席から、女がわたしを凄い形相で睨みつけていました。
― もしかして、女の霊の膝の上に座っていたのか? ―
と思いながら走り去るバスを見送りました。
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