取ってえな
中学生のときの体育祭での出来事です。
昼の部がはじまって間もなく、わたしはトイレに行きたくなりました。
大きいほうです。
クラスの悪友に知れたら、イタズラしに来るかもしれません。
落ち着いて用を足したいわたしは、誰も来ないであろう校舎の3階へこっそり向いました。
その一番奥の、今まで利用したことの無いトイレに入りました。
個室で腰を下ろしていると、人が入ってくる気配がしました。
― こんな人気の無いトイレにくるやつが、俺以外にもいるのか? ―
と思っていると、その人はわたしの個室のドアの前にやってきて、
「紙、取ってくれへん?」
と声をかけてきました。
トイレットペーパーのことと思い、予備のやつに手をかけると
「それと違うがな」
と言います。
「後ろにあるやつや」
振り向いて見上げると、そこに御札が貼られていました。
「それがあると入られへんねん。なあ、頼むから取ってえな」
わたしは用足しもそこそこにして、勢いよく扉を開けると全力で駆け出しました。
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