黄色い傘の少女

2020年6月7日

私が大学生だった頃の8月の話。

それは時折サーッと小雨が降り注ぐ悪天候の中、花火大会が強行された時の事です。

いつもは近所の堤防から花火を見るのですが、その時は花火が雲間に隠れて見えません。

私は花火の見えるとこまで移動しようと、堤防の暗くて細い道を歩き始めました。

普段は大勢の人で賑わうのですが、この時ばかりは天候が悪い上に肌寒さもあって全く人がいません。

諦めて引き返そうかと思い始めた頃、

前方の大きな木の横に、黄色い傘が開いた状態で転がっているのが見えました。

― あの辺りに人がいる。花火が見えるんだ ―

私はそう思い、とりあえずそこまで行ってみることにしました。

歩みを進めながら、堤防の上や水辺など周囲を見渡すのですが、人がいる様子はありません。

― 誰かの忘れ物か、飛ばされた物かな? ―

などと考えながら傘の横を通り過ぎるときに、中を覗いてみました。

小学2年生ぐらいの女の子がちょこんと座って、ジーッと上空を見上げていました。

― なんだ、人がいたのか ―

心細かった私はホッとしながら、

― ここからでも花火は見えないよなぁ ―

などと思いながら、女の子が見つめる視線の先を追ってみました。

そこには、視界を遮るように木から太い枝が伸びており、

そこに中年男の首吊り死体がぶら下がって、ジーッとこちらを見下ろしていました。

驚いた私は足早にその場をあとにしました。

以前、この河川敷のどこかに首吊りで有名な木があるという、先輩の話を思い出したのはその後でした。