黄色い傘の少女
私が大学生だった頃の8月の話。
それは時折サーッと小雨が降り注ぐ悪天候の中、花火大会が強行された時の事です。
いつもは近所の堤防から花火を見るのですが、その時は花火が雲間に隠れて見えません。
私は花火の見えるとこまで移動しようと、堤防の暗くて細い道を歩き始めました。
普段は大勢の人で賑わうのですが、この時ばかりは天候が悪い上に肌寒さもあって全く人がいません。
諦めて引き返そうかと思い始めた頃、
前方の大きな木の横に、黄色い傘が開いた状態で転がっているのが見えました。
― あの辺りに人がいる。花火が見えるんだ ―
私はそう思い、とりあえずそこまで行ってみることにしました。
歩みを進めながら、堤防の上や水辺など周囲を見渡すのですが、人がいる様子はありません。
― 誰かの忘れ物か、飛ばされた物かな? ―
などと考えながら傘の横を通り過ぎるときに、中を覗いてみました。
小学2年生ぐらいの女の子がちょこんと座って、ジーッと上空を見上げていました。
― なんだ、人がいたのか ―
心細かった私はホッとしながら、
― ここからでも花火は見えないよなぁ ―
などと思いながら、女の子が見つめる視線の先を追ってみました。
そこには、視界を遮るように木から太い枝が伸びており、
そこに中年男の首吊り死体がぶら下がって、ジーッとこちらを見下ろしていました。
驚いた私は足早にその場をあとにしました。
以前、この河川敷のどこかに首吊りで有名な木があるという、先輩の話を思い出したのはその後でした。
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