失敗した女
これは以前勤めていた、職場の人から聞いた話です。
ある会社帰りのことでした。
雨が降りしきる中、傘もささずにずぶ濡れになって、とぼとぼと歩いている女性とすれ違いました。
その女性は近所に住んでいる人でした。
「失敗した、失敗した」
としきりに呟いていました。
― 家を出るときに、傘を忘れたことを言ってるのかな? ―
と思いました。
すれ違う際に、変な匂いに気付きました。
それは潮のかおりでした。
この辺は海に近いこともあって、雨粒に海の匂いが混じってくるのだろうと思いました。
家に帰りつくと、その女性が行方不明になっていることを知りました。
前日に車で出かけたまま、帰ってこないのだそうです。
その女性宅に確認しても、やはり戻っていないと言うことでした。
― さっきすれ違ったのは人違いか? ―
それから数日後、その女性は海で遺体となって発見されました。
彼女は運転を誤り、車ごと海に転落して亡くなっていたと言うことです。
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