旅先のタクシー

2020年6月7日

20年ぐらい前の一人旅したときの話。

『遠くへ行きたい』を口ずさみながら、知らない町をうろうろしているうちに道に迷ってしまいました。

タクシーで駅まで送ってもらえばいいやと気楽に考えていました。

タクシーが来たので、手をあげて止めようとしました。

後部座席に人影が見えました。

客を乗せているのかと手を下ろすと、タクシーが停まりドアが開きました。

後部座席には誰もいませんでした。

さっき見えたのは錯覚かと思い、そのタクシーに乗り込みました。

しばらくすると、突然何かに足をつかまれた感覚がしました。

ビクッと飛び上がった私を見て、

「どうしました?大丈夫ですか?」

と運転手が訊ねてきました。

「もしかしたら、まだいるのかもしれないですね」

とつづける運転手に、

「・・・・・・?、なんですか?」と聞くと、

さっき霊を乗せたのだという。

「しばらく走ってたら姿が消えていて、丁度そこにお客さんが手を上げてたんですよ」

霊を乗せていても害がないとわかれば、お客さんを乗せることがあるそうです。

実は足をつかまれたと告げると運転手は、

「霊って足がないって言うから、足を欲しがってるのかもしれませんねえ」

と笑いました。

― ダメじゃん! ―

とわたしは心の中でつぶやきました。