旅先のタクシー
20年ぐらい前の一人旅したときの話。
『遠くへ行きたい』を口ずさみながら、知らない町をうろうろしているうちに道に迷ってしまいました。
タクシーで駅まで送ってもらえばいいやと気楽に考えていました。
タクシーが来たので、手をあげて止めようとしました。
後部座席に人影が見えました。
客を乗せているのかと手を下ろすと、タクシーが停まりドアが開きました。
後部座席には誰もいませんでした。
さっき見えたのは錯覚かと思い、そのタクシーに乗り込みました。
しばらくすると、突然何かに足をつかまれた感覚がしました。
ビクッと飛び上がった私を見て、
「どうしました?大丈夫ですか?」
と運転手が訊ねてきました。
「もしかしたら、まだいるのかもしれないですね」
とつづける運転手に、
「・・・・・・?、なんですか?」と聞くと、
さっき霊を乗せたのだという。
「しばらく走ってたら姿が消えていて、丁度そこにお客さんが手を上げてたんですよ」
霊を乗せていても害がないとわかれば、お客さんを乗せることがあるそうです。
実は足をつかまれたと告げると運転手は、
「霊って足がないって言うから、足を欲しがってるのかもしれませんねえ」
と笑いました。
― ダメじゃん! ―
とわたしは心の中でつぶやきました。
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