海に潜む者

2020年6月7日

これは数年前、私が21歳の頃に仲のいい友達数人で集まり海へ遊びに行った時の話です。

真夏の時期でその日は天気がよく、沢山の人達が海水浴を楽しんでいて、私達も水着に着替え浜辺ではしゃいでいたのですが、友達の一人が「あそこから飛び降りてみようぜ」と、小さな崖を指さして言いました。

高さは2メートルほどで怪我をするような高さではないですが、ちょっとした勇気が試されるようなそんな崖だったので、テンションの上がった私達は早速その崖に走って向かいました。

友達の一人が片手で撮れる小型のカメラを持っていたので、カメラの前で面白いポーズを撮りながら飛び込む瞬間を撮影し、暫く飛び込みを楽しんでいたのですが、一人の友達が

「あれ?S男どこに行った?」

と言いました。
その言葉で周りの皆もS男がいないことに気付き、S男を呼びかけながら辺りを探しました。
ですが見付からず、監視員の人にも協力してもらい再度探しましたがそれでも見付からず、日が暮れた頃「暗くなると危ないので、一度帰ってください。S男さんはこちらの方で捜索します」という監視員の言葉に従い、重い空気の中皆で帰宅したのですが…

それから1週間が過ぎた頃、警察からS男が亡くなったという連絡を受けました。
死因は溺死で、あの崖から少し離れた所で発見されたと伝えられ、私達は悲しみと後悔で泣き崩れました。

翌日S男の葬式に出席し、火葬にも参加し、それから2週間が経ったある日。
海で遊んだ時にカメラを撮った友達から「ちょっと来てくれ」と、深刻な様子で連絡がきました。
葬式以来、会っていなかった仲間が2週間ぶりに集い、S男の事を思い出しながら呼び出した友達になにかあったのかと尋ねると彼は小さく頷き、「これを見てくれ」と言って一枚の写真を見せました。
その瞬間、私達は全員青ざめました。

その写真には、崖でポーズを取るS男の背後に無数の白い手が伸びていたのです。