ある雨の日の電車での出来事

わたしは学生時代、地元を離れ地方都市の大学へ通っていました。

 

その日は朝から、しとしと雨が降り続いていました。

わたしはアルバイトからの帰りの電車の中、座席でうとうとしていました。

 

突然、頭の上で

「傘は?」と声がしました。

 

ふと、顔を上げると、地元にいるはずの彼女がつり革につかまって、わたしを見下ろしていました。

 

― なんでここに? ―

 

驚いているわたしに彼女は再び

 

「傘は?」

 

わたしは足元に転がしていた折りたたみ傘を指差しました。

 

彼女はそれを拾い上げると、きれいに折りたたんでくれました。

電車が次の駅に停車すると、

「ここだから」

とそそくさと降りていきました。

 

アパートに戻って実家に電話してみました。

 

「さっき、○○ちゃんに会ったんだけど、こっち来てるの?」

 

「そんなはずない、ここんとこ風邪こじらせて寝込んでいる」

という話だった。

 

「あんたが1年以上も帰ってこんもんやから、心配してちょくちょく電話してきよるよ」

 

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