叩くな!
「ちょっとぉ、うるさいんですけどぉ、夜中なんで静かにしてもらえます?」
古いワンルームの隣人が苦情を言ってきた。
カーペットのほんのちょっとしたシコリが気になっていた。
わたしはそれを潰そうとバンバン叩いていた。
― 苦情がくるほどお隣に響いてるのか・・・ここ壁うすいもんなあ・・・ ―
でもまだ、そのシコリが気になって仕方が無い。
わたしはお隣が出かけるのを確認してから、カーペットのシコリをバンバン叩いた。
平らになりそうで、なかなか平らにならない。
その時、怒鳴り声が響いた。
「叩くな!」
― お隣はさっき出かけたはず・・・戻ってきたのかな? ―
「ごめんなさーい」
わたしは返事を返した。
その後も、お隣が出かけたのを確認したあとや、できるだけ響かないようにしながらカーペットを叩いた。
そのたびに、お隣から
「叩くな!」
と怒鳴られた。
すっかり隣人トラブルだ。
わたしは部屋を出ることにした。
引っ越し作業のとき、カーペットを剥がした。
下から潰れた黒いモノが出てきた。
ただの綿ゴミだろうと無造作に拾い上げたら、感触が違った。
― なんだこれ? ―
わたしはそれを天にかざし、しげしげと観察した。
それはペッチャンコになったカエルのミイラだった。
― これが『叩くな!』って怒鳴ってたのか・・・ ―
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