ぬいぐるみ

その時、わたしはトイレに急いでいました。

途中、駐車場で何やら人が集まって騒ぎが起きていました。

しかし、今のわたしはトイレが先だと、騒ぎを横目にその駐車場に隣接する、雑居ビルに入りました。

ビルに入ると通路の奥にあるトイレへ駆け込みました。

用を終えて出てくると、隣の女子トイレの入口の脇にぬいぐるみが置いてあるのに気付きました。

― 忘れ物か?置いてあるだけか? ―

ビルの出口に向って通路を歩いていると、女の子がわたしを追い越していきました。

さっきのぬいぐるみを抱えていました。

通路の先のエレベーター前で、お父さんとお母さんが笑顔で女の子を手招きしながら待っています。

3人はエレベーターに乗り込むと上昇していきました。

雑居ビルを出ると、さっきより人だかりが大きくなっていました。

警官がおっかなびっくりな様子で車のドアを開けようとしています。

「何があったんですか?」

とそこにいた人に聞くと、

親子3人が車中で、煉炭による一家心中を図ったというのです。

車内を見るとさっき雑居ビルで見かけた親子でした。

その女の子の腕には、大事そうにあのぬいぐるみが抱えられていました。