町工場での出来事
小学高学年の頃の出来事です。
わたしたちは人気のない路上で、キャッチボールをしていました。
わたしの背後30メートルほど離れたところに、古い町工場がありました。
そこは大きな引き扉になっていて、いつも休日は閉じられています。
その時は日曜日でしたが少し扉が開かれて、奥でおじさんがひとり火花を散らして溶接作業している様子が見えました。
わたしが捕り損ねたボールが、その町工場の少し開いた扉から作業場の中へ飛び込んで行きました。
わたしは扉の中を覗きこんで、
「すいませーん、ボール取らせてくださーい」
と声をかけました。
しかし、休憩に行ったのか、さっきまで作業していたおじさんの姿がありません。
わたしはこっそりと入っていきました。
ボールはおじさんが作業していた辺りにありました。
「おい、何しとる?」
扉の外から、かなり年配のおじさんが声をかけてきました。
「ボール取らしてもらってました。声かけたんですけど、さっきの人がいなくて・・・」
「今日、日曜や、誰もおらんぞ」
その時、すぐ横にあるロッカーが
― ガタン ―
と音を立てて、扉が開きました。
そのロッカーを見たおじさんが言いました。
「ああ、あいつか。仕事やり残したまま逝ってもうたからなあ」
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