いすとりゲーム

それぞれがまだ顔も名前も覚え切れていない、新年度が始まったばかりの幼稚園での話。

 

『いすとりゲーム』をする事になりました。

メンバーは10人いたので、いすを9つ用意しました。

 

ラジカセで音楽を流し、先生が止めます。

みんな懸命になっていすを取り合います。

しかし、座れなかった子がふたりいました。

人数を数え間違えたのだろうと、いすをひとつ追加して再スタートしました。

 

音楽が止まって、いすを取り合います。

ふたりの男の子が、自分のほうが先に座ったと争いになりました。

ジャンケンで勝ち負けを決めさせました。

 

しかし、負けたほうの子は納得いかない様子で、怒って教室から出て行きました。

すぐに先生はその子のあとを追いかけました。

 

男の子を追って教室を出ようとすると、ゴツンと顔をぶつける痛みが走りました。

よく見るとそれは、教室の出口ではなく長方形の鏡でした。

 

みんなはおしゃべりに夢中になって、こちらの様子に気付きません。

 

先生はしこたま打った顔を抑えながら、みんなの所に戻って

「さっきのお友だち、誰?」

と訊きました。

 

全員がそろって、

「知らなーい」

という答えでした。

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