向かいの窓の影
これは学生時代の夏休みに短期バイトしたときの事です。
そこは作業場には冷風機はあるものの、休憩所は扇風機があるだけで、夏場はひどく熱がこもるために、窓はいつも開け放されていました。
わたしは休憩の時間に窓枠にひじを付きながら、ひとりタバコを吸っていました。
真向かいの建物を見ると、わたしと同じように休憩している人がいました。
なんとなく見ていると、その人は窓枠によじ登り始めました。
― 窓ガラスの掃除かな? ―
などと思っていると、その人はおもむろに窓枠に足をかけ身を乗り出し、そのままストンと飛び降りてしまいました。
ハッとして見下ろすと、そこには飛び降りた人の姿がどこにもありません。
改めて正面の建物を見ると、別の人がやってきてそこの窓を開け、タバコを吸い始めました。
今まで開いていたと思っていた窓は、実は閉じられていたのです。
そこは実家から近いこともあり、その時までは就職も考えていた会社の工場でした。
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