はやく、はやく
中学生の頃、友人とふたりで遠出しようという話になった時のことです。
ちょっとした冒険気分で、川沿いを出来るだけ遠くへ行ってみようと、わたしたちは自転車で二人乗りして堤防沿いを走っていました。
ふと、堤防の下を見るといつの間にやら、おじさんが自転車を走らせていました。
その道は堤防から一段下がった道で、堤防と同じように長い一本道になっています。
おじさんを見下ろしながら自転車をこいでいると、後ろの友人が言いました。
「おい、負けてるぞ」
おじさんもこちらをチラチラ見ながら、スピードを速めたりしています。
友人も
「はやく、はやく」と私を激しく煽りました。
わたしも煽られるまま、おじさんに負けまいとスピードを早めました。
おじさんを眼下に見ながら、ペダルを踏みしめていると、
突然グインっと自転車ごと持ち上げられた感覚が襲いました。
わたしたちは通行止めのために張られたチェーンに乗り上げ、転倒していました。
友人もわたしもお互いたいしたケガはありませんでした。
「何やってんだよ、ちゃんと前見ろよ」と言う友人に、
「あのおっちゃんが、スピードあげるから・・・。おまえも早く早く言うし」
そう言って目をやると、そこはどこも曲がる箇所が無い一本道なのですが、自転車おじさんの姿はどこにもありませんでした。
友人も、はやく、はやくなんて言ってないし、おじさんなどいなかったと言うのです。
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