おまえも来いよ

わたしの父親が小学生の頃、昭和30年頃の夏の話です。

父は瀬戸内海の島の出身です。

小さな島の島民はみんな親戚みたいなもの。勝手に海水浴場に入っても何も言われません。泳ごうと思えば泳ぎ場所はどこにでもある環境でした。

「海行かんか?」

いつものようにいつもの3人の仲間たちが泳ぎに行こうと誘ってきました。

ただ、いつもの海水浴場ではなく、島の反対側にある小さな浜辺に行ってみようと話になりました。

しかし父は祖母から留守番を頼まれて行けませんでした。

仲間3人は父を残し、出かけていきました。

留守番に退屈して眠りこけていた昼下がり、バンバンバンと玄関を叩く音がしました。

「おまえも来いよー」

と声がしました。

眠い目をこすりながら、むっくりと起きて顔を出すと誰もいません。

見ると、玄関口の石畳に、濡れた足跡がいくつも残っていました。

― あいつら来たのか ―

仲間たちが父の用事が済んだ頃合だとみて、誘いに来たと思ったそうです。

夜の8時頃になると仲間のお父さんが訪ねて来ました。

「うちの子が戻らんのじゃ、どこ行きよったか知らんかのう?」

3人が帰ってこないというのです。

その後仲間3人はそのまま戻ってくることはありませんでした。

実は島の反対側は潮の流れや風向きが変わりやすく、サメも出没するようなところで海水浴には不向きな場所でした。

父は言いました、

「わしも連れて行きたかったんかのう」