微笑返し
友人のAが高校生の頃に体験した話です。
電車に乗り込もうとした時に足元を見ると、電車とホームの隙間に人の顔がありました。
その人はAと視線が合うと、照れくさそうにニコッと笑いました。
Aも思わず微笑を返しました。
― 係りの人が車輌の点検か、落し物を拾うために車体の下に潜り込んでるんだな ―
とAは思いました。
ドアのそばに立っていると、駅員が電車とホームの隙間を覗き込みながらやってきました。
Aの元にくると、
「おーい、こっちやー」と他の駅員を呼びました。
ぞろぞろと駅員が集まってきました。
しばらくして反対側を見ると、
車体の下からブルーシートに包まれた『物体』が、担架に乗せられて運び出されるのが見えました。
飛び込み自殺でした。
向い側のホームの下に、ブルーシートに包まれた『死体』が一時置きされました。
それは明らかに二つに分断されていました。
― さっきあの死体と微笑みあったのか ―
そう考えるとAはたちまち気分が悪くなって電車を降りました。
ホームの椅子に座って休んでいると、電車が動き出しました。
電車が去った線路内には血をふき取ろうとした新聞紙が残されていました。
特急列車が通過したあとも、枕木に血のりでくっついたままの新聞紙が風になびいていたのが、さらに気持ち悪さを引き立たせたそうです。
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