「待ってて、いま行くから」

これは私が大学生になったばかりの、地方から東京に出てきて一人暮らしを始めた頃の話です。

私は大学から30分ほどかかる、通学には不便しない距離にあるマンションに住んでいるのですが、そのマンションは他の部屋が7万円ぐらいなのに対し、一室だけ3.5万円の安い部屋がありました。

マンションの部屋選びをしているとき、不動産屋には予め事故物件であることは教えられたのですが、当時そういうことに頓着がなかった私は安さだけでその部屋を選び住むことにしました。

最初は何事もなく普通に過ごしていたのですが…

ある日、大学から帰った私は家の用事を済ませ夕食を取ったあと、一日の疲れを取ろうとお風呂場に向かいました。

実家のお風呂は古いお風呂で蛇口を捻ってお湯を出すというシンプルなものですが、このマンションのお風呂はボタンを押して設定できるようになっていて、引っ越して間もない私は慣れない手つきでボタンを押していきました。

その時、ふと「呼び出し」というボタンに目がいき、押すとどうなるんだろうと好奇心の湧いた私は呼び出しボタンを押しました。

するとお風呂の外から「待ってて、いま行くから」と女性の声が聞こえてきました。

部屋には私以外は誰もおらず、またテレビもついていなかったので部屋の中は静かでした。

にも拘わらず、呼び出しに応じるかのように返事が返ってきたのです。

これが、以前この部屋で亡くなった方の霊なのか私の聞き間違いなのかは分かりませんが、次に部屋を借りる時はもう少し慎重に選ぼうと思いました。