第一部
プロローグ
そう、それはいつもの昼下がり。
いつものように気だるい午後が始まって、いつものように帰宅する。
そんな『いつも』がくるのだと誰もが信じて疑わなかった、そんな日。
始まりは一人の叫び声だった。
「あそこで誰か倒れてる!」
その示す方向に皆が一斉に視線を向けると、そこには血を流し上を向いて倒れている男性がいた。
血液は首から流れており、そこには噛まれたような歯形がついていた。
その歯形は動物のものではなく…まるで人間の…
一人が駆け寄り傷口にハンカチを当てると、その手は男性の血で染まる。
「…亡くなっているみたいです!」
「は、早く警察を?」
人だかりができ始めた、その時だった。
「……う、うぅ。」
倒れていた男性の口元が動き、次の瞬間、近くにいた人に噛みついたのだ。
悲鳴が響き、周囲は一気に混乱に包まれる。
噛まれた人が異変を起こし、さらに周囲の人々へ襲いかかる。
助けようとした人の手にも、逃げ惑う人の衣類にも血液が付着していた。
ついには血液に触れた人々にも、その部位から異変が現れ始める。
人々は必死で近くのビルに逃げ込み、扉を閉めた。
いったい何が起きているのか。
そして自分たちはどうすれがいいのか…。
その答えを誰も知らなかった。
ゾンビ考察
1死亡の定義
ゾンビについて考える前に、まずは生きている人と亡くなった人の違いについて振り返ってみましょう。
人の死を判断する際には、呼吸や血液循環の停止などが重要な兆候となります。
また医療現場では、状況に応じて瞳孔の状態や対光反射なども確認されます。
対光反射とは、光を当てたときに瞳孔が小さくなる反応のことです。
この反応には、脳や神経の働きが関係しています。
ただし、瞳孔が開いていることや、対光反射が見られないことだけで、人の死を判断できるわけではありません。実際の死亡確認は、状況に応じた医学的な判断に基づいて行われます。
つまり単に身体が動かなくなったり、呼吸が確認できなくなったりしただけで、私たちが死亡を確定できるわけではないのです。
では、プロローグで倒れていた男性は、本当に死亡していたのでしょうか。
この疑問を考えるためにも、まずは男性に何が起きていたのか、作中の状況を整理してみましょう。
2 ゾンビ考察
プロローグでは、倒れていた男性について、周囲の人が「亡くなっているみたいです!」と叫んでいます。
しかし、男性の死亡確認を誰が、どのような方法で行ったのかは明らかになっていません。
そのため、ここでは「周囲の人々には、男性が死亡しているように見えた」と考えておきます。
また男性の首には噛まれたような傷があり、そこから出血していました。
首には太い血管が通っているため、傷の程度によっては大量出血につながる可能性があります。
さらに噛み傷があることから、何らかの病原体に曝露した可能性も考えられます。
ただし傷があることや出血していることだけで、感染の有無を判断することはできません。
ここでは、未知の病原体が関係しているという仮説を立てて考えてみましょう。
つまり、この男性は首に噛み傷を負い、出血した状態で倒れていた。
そして、周囲の人々が死亡しているように見えた男性が、突然動き出して人に噛みついた、ということになります。
では、男性が一時的に意識を失っていただけだとしたら、どうでしょうか。
意識を失った人が回復すること自体はあり得ます。
しかし、それだけでは、突然人に噛みつくという行動や、噛まれた人々に次々と異変が起きる現象までは説明できません。
死亡しているように見えた男性の突然の行動、首の噛み傷、そして周囲の人々に広がる異変。
これらの現象には、いったいどのようなつながりがあるのでしょうか。
ここからは、【ゾンビを未知の病原体によって引き起こされる現象】と仮定し、ゾンビに襲われた時にどうすれば生き残れるのかを考えていきたいと思います。
第二部へ続く