とある病院での実体験 【ナースコール】

10年以上前、私がとある病院で働いていた頃に体験した話です。

もともと、その病院では、誰もいないベッドからナースコールが鳴ることがたびたびありました。

「空いているベッドから鳴っているな」と思いながらも、もし本当に誰かがいて、何かあったら大ごとになります。そう考え、仕方なく様子を見に行きました。

しかし、見に行ってみても、そこには誰もいません。同室の患者さんに確認しても、ナースコールを押していないといいます。

そんなことが、月に1回ほどの頻度で起こっていました。

必ず鳴るベッドがあるわけではなく、そのとき空いているベッドから鳴るのです。

私も入職して1年が経つ頃には、すっかり慣れっこになっていました。

ある日、いつも通り勤務していると、ナースコールが鳴りました。

スタッフステーションにある表示を確認すると、名札が何も貼られていない場所が点滅しています。

また空いているベッドから鳴ったのだろうと思いました。

ナースコールの表示は部屋ごとに分かれており、患者さんが入院していなくても、どの部屋のどのベッドから鳴っているのか分かるようになっています。

ところが、そのとき点滅していたのは、見たことのない場所でした。

そこには部屋番号もベッド番号もなく、どこから鳴っているのか分かりません。

点滅していたのは、壁に貼られたナースコール一覧の一番下でした。

普段から使われていない場所だったため、前には物が置かれており、ほとんど見えなくなっていました。

私は気になって、その物をどかしました。

すると、点滅しているところの隣に、かすかに「機材室」と書かれているのが見えました。

その機材室は、いわゆる物置でした。

点滴の棒やベッド柵、そのほか急変時に使われる機材など、普段は頻繁に使わないものが置かれている部屋です。

そして私は、このとき初めて、その部屋にナースコールが設置されていることを知りました。

しかも、そのナースコールが鳴ったのは、朝のカンファレンス中でした。

日勤のスタッフは全員、スタッフステーションに集まっています。

私が勤務していた病棟は小規模で、日勤は6人ほど、夜勤は2人体制でした。そのため、誰が不在で、どこにいるのかは、常に把握できる状態でした。

その機材室は、病棟のスタッフだけが持っている鍵がなければ入れない場所でした。

ほかの病棟のスタッフはもちろん、患者さんが入れるような場所でもありません。

そして何より、病棟のスタッフ全員が、その部屋にナースコールがあることすら知らなかったのです。

 

スタッフステーションは騒然となりました。

それでも、「何かあってはいけない」と、先輩と私の2人で機材室を見に行くことになりました。

機材室に到着し、扉を開けようとドアノブを回しました。

しかし、開きません。

鍵がかかっていました。

誰かが中に入っているわけでもなさそうでした。

私が鍵を開け、機材室に入りました。

中は暗く、3畳ほどの狭い部屋に、機材が所狭しと置かれていました。

問題のナースコールは、機材室の入り口正面にある壁に設置されていました。

そこまで行くには、足元に置かれた機材を避けながら進まなければなりません。

ナースコールは、私の胸あたりの高さに設置されていました。

周囲を確認してみても、背の高い機材がナースコールに接触しているわけではありません。

ナースコールに触れるようなものは、近くには何もありませんでした。

先輩も、

「こんなところにナースコールがあるのは知らなかった。なんで鳴ったんだろう」

と言いました。

その言葉を聞いた瞬間、言いようのない気持ち悪さが全身に広がりました。

何十年もその病院に勤めているベテランの先輩に聞いても、その部屋はずっと機材室として使われていたということでした。

そして、なぜそこにナースコールが設置されているのかも分からないということでした。

私はその後、数年間その病棟に勤務しました。

しかし、あの機材室のナースコールが鳴ったのは、結局あの1回だけでした。

私はその後、病院を退職しました。

そして数年後、その病院は建て替えられました。

あの3畳ほどの部屋に、なぜナースコールがあったのか。

以前、そこは何に使われていたのか。

今となっては、知る術はありません。

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